仮想現実

2025年の大阪万博が決定したらしい。ラジオのニュースを聞き流していたら、「今時、そんな金をかけるなら、仮想現実で十分じゃないか」なんて声が流れていた。僕の意見は、これに一番近い。

実を言えば、僕は「万博」と称するイベントに一度も行ったことがない。大阪万博、沖縄海洋博の頃はまだガキで、連れて行ってもらえるなんて期待できる経済状況じゃなかったし、筑波の科学万博は、誘う相手がいなくて、一人で行ってもつまらないと思って行かなかった。そう言えば、名古屋でも何かあったっけ。行かなかった理由は、筑波と同じか。全然、後悔なんてないけど。

今時だと、展示って言ったって、単なる「置物」だと出展者がバカにされるだけだろうから、「参加型」とか言って、何らかのインタラクティブな仕掛けをするに違いない。そうすると、どのパビリオンに行ってもメディアラボ、あるいは、メディアラボの二番煎じ、三番煎じみたいな展示ばかりになってたりして。
じゃぁ、拡張現実(Augumented Reality)で、参加者全員がヘッドギアみたいなのを付けて、音と映像とで何らかの「展示」を「体感」する、なんて企画も当然あるんだろうけれども、ぶっちゃけ、2025年にそうした仮想現実用、拡張現実用の個人向けデバイスは、どの程度進歩、普及しているんだろうか、と考えるに、結構あちこちの自治体なんかが、観光開発で「拡張現実イベント」みたいなのを展開できる程度まで、デバイスや通信環境、アプリのプラットフォームが普及していそうな気がする。そうなってくると、今更「大阪万博に行ってみました、でも、何がそんなにすごいの?」みたいな程度に、各社が目一杯頑張って「展示」したものが、世間一般と比べてどれほど「すごい」のか、ほとんど見分けがつかないような「どこにでもある」展示ばかりになっていそうで、冒頭の「今時、そんな金をかけるなら・・・」の見解に落ち着く。何だか、想像しただけで、あ、この程度なら行かなくてもいいや、なんていう気分になってしまった。こうやって、過去の万博も全部スルーしてきた私。

視覚とか聴覚とかは、比較的騙しやすい気がする。特に、3Dゴーグルだのステレオ音響だので、かなりの臨場感は作れると思う。味覚は別にして、そこに嗅覚とか触覚刺激(風を吹かせる、温度を変える、霧を出す、など)を組み合わせると、結構臨場感は作れると思う。ただ、人間の感覚って、本当にその五感だけなの?と思った。結構大事な「感覚」を忘れている、と思う。
えぇと、決して、超感覚的知覚の話題を持ち出そうとしているのではありません。

体性感覚と、重力などの三半規管が感じる感覚。
例えば、遊園地の絶叫マシン。あれは、視覚的な刺激は無論あるけれども、加速度が直接三半規管を揺らす。それに、体を支えるために筋肉や骨格が感じる体性感覚とか、安全バーのような器具からの触覚が加わって、複合的に感覚刺激を与えていると思う。あの、三半規管が感じる重力やら加速度、重力とか体の動きから「内部的」に発生している体性感覚などは、五感のどこに含まれるんだろうか?特に、三半規管の感覚は、五感のどこにも含まれていない気がする。

そして、三半規管の刺激だけは、全身が加速度を感じないと刺激されない。

僕は、絶叫マシンは大好きだけれども、実を言えば、20代の終わり頃メニエル氏病になってから、三半規管が恐ろしく鈍くなっていることに気づいた。それに気づいたのは、絶叫マシンだったかも知れない。体はGを感じているのに、上下感覚がない。試しに目を閉じただけで、実は、どちらが上でどちらが下か、全く感じることができていないことに気づいて、かなり驚いたことがあった。それに気づいたのは、絶許マシンだった。そして、メニエルの発作、めまいの発作が結構頻発していた頃に、めまいの発作が唐突に起きると、突然、自分の体性感覚が狂って、例えば、倒れるにしても、自分がどちら向きに倒れているのか(視点が定まっていないから、視覚情報はそもそも頼れなくて)ほとんど受け身が取れない状況で棒が倒れるような倒れ方をする。それで、全身前のめりに棒状に倒れて、顔面を強打して、上の前歯を折った。逆に言えば、絶叫マシンに乗っていても、三半規管はほとんど反応していなくて、僕が実際に感じている「体の揺れ」は他の人とは全く違うんだろうな、という結論に至った。
学位論文を書いていた頃、だったかなぁ、カナダのモントリオールに、博士課程の学生のI君だったかなぁ、一緒に行った。時差ボケで、何だか体がシャキッとしない。じっとしていると眠くなる。どうしようか、なんていう話をしながら、モントリオールには結構規模の大きい遊園地があって、「どうせ学会会場に入っても、暗くなってじっとしていると眠っちゃうだけだから、遊園地で眠気覚ましをしようか」なんて話しながら、遊園地に行った、なんてことがあった。日本の遊園地では信じられないくらい空いていて、絶叫マシンに3回連続で乗った。ところが、I君は青ざめていて、僕は全然平気で、I君が「ちょっと休ませてください」なんて言っていた、そんなことがあった。
ところが、これはモントリオールじゃなかったかも知れないけれども、「絶叫マシンもどき」で、画像だけを目の前に大写しにして、座っている座席が若干前に傾いたり、左右に揺れたりする、かなり「もどき」なアトラクション(テレビの番組で、トロッコがちょっと揺れたり、前後左右に傾いたりするのと、映像が連動する、あのタイプの仕掛け)があって、その時一緒に遊びに行ったのが誰だったか思い出せないんだけれども、みんな、「こんなショボいの、全然面白くねぇじゃん」とか言ってるのに、実は僕だけは、かなり酔いかけて、気持ち悪くなりかけていた。痛感したのは、三半規管が機能していないから、体性感覚を把握するのに僕自身の脳は、大半を視覚情報に頼っているんだろう、ということだった。だから、視覚情報で、ああした上下左右に猛烈な勢いで(おそらく、現実の絶叫マシンでは実現できないほどの高速で)映像が切り替わる、しかもそれが目の前いっぱいに大写しで広がっているアトラクションでは、完全に脳が騙されて、猛烈な「酔い」を経験してしまう。
安上がりと言えば、安上がりなんだけれども、メニエルの発作の時のように三半規管がイかれているお陰で、受け身が全く取れない、なんていうのは、ちょっと怖い状況でもある。

私の場合には、体性感覚の一部が壊れているから、視覚情報だけでかなり騙されるかも知れないけれども、ただ、「臨場感」を完全に再現するためには、三半規管を揺さぶるような状況を作らないと、完璧に「臨場感」を演出することは困難、なんじゃないかなと、思った。

7年後、でしょ?だったら、多分、ARのプッシュ通信なんかで、WEBにアクセスすると「ジェットコースターもどき」の映像を体感できるシステムは、作れていると思うし、それこそ、ワンコインで(100円か500円かは、なんとも言えないけれども)ゲーセンで遊べる、なんて感じにはなってるような気がする。それどころか、ちょっとお金を出して、数万円?数千円出したら手に入るAR用のデバイスを中国あたりが売り出しそうで、家庭でも簡単にVRやARを経験できる、そういう時代になっていそうな気がする。7年後、ですよ?今の技術革新のペースから考えたら、「とてつもない未来」だと思う。
そんな時に、「これが未来だ」なんて、パビリオンでどんな展示をするのか、何だか、出展する企業の方々が、気の毒な気もする。というよりも、そこから先、メディアラボとかプロジェクションマッピングのさらに先をいくアイディアを、どうやって出すか、が大変なんだろうな、という気がする。

となると、私のように三半規管や蝸牛感が潰れていて、片耳だけで生活し、体性感覚を視覚に頼っている人間のように、他の皆さんも「一時的に、体性感覚を麻痺させたら?」なんてことを思いつく。ごく一過性で、体性感覚が一時的に麻痺するクスリ。これを服用してから「絶叫マシンもどき」のように、というか、陳腐なARやVRでも視覚的な揺さぶりをかけたら、みんなすごく「臨場感」を感じるんじゃないの?なんてことを思った。副作用として「体性感覚の麻痺」が起きるクスリは、確かいくつかあったような気がするけれども、何だか、だんだんアブナイ方向に話題が傾きつつある気がした。
ですからね、アイディアなんて、とにかく数を出すことが勝負なんですってば。さすがに、このアイディアは没だろうと、自分でも思う。(ですがね、没になったアイディアが、別のアイディアを誘発する、ってことはあり得るので、書いてる。)
一見関係なさそうな話題をどんどんとつなげて、点と点を線で結べる人でなければ、未来は見通せない。

ただなぁ、大阪万博のパビリオンで、一体どんな「展示」が繰り広げられるんだろうか。万博開催に突っ走った人たちって、「実際にどんな展示をするか」を考えてから、「やる」と言い出したんだろうか?疑問ですね。万博やりゃ、人が集まって経済効果がある、なんて、どういう根拠で考えているんだろうか。言った誰もが「つまらなかった」「あんな程度か」なんて言い出したら、逆効果じゃなかろうか。

万博に行った会場で、散々「仮想現実」だの「拡張現実」だのを見せられるだけなら、なんでわざわざ大阪まで行く必要があるの?という疑問は絶対に出ると思う。どこかの国の大統領が、地球温暖化のメカニズムを全く理解できないで、フェイクだフェイクだと叫んでいる。それと同じように、経済効果、経済効果と叫ぶだけの政治家は、極めて個人的な見解として、邪魔なだけだと思う。多少なりとも、時代を読んだらどうなの、という気がした。

いや、否定的な文章で終わったら、寂しいだけだから、あえて書くならば、メディアラボだの、プロジェクションマッピングだのが陳腐化するくらいの新しいアイディアを出して欲しい。ここでも、若い方々に期待します。人材発掘でしょうね。潰さないように。いや、突拍子もないような話題を持ち出すと、絶対に「わけのわからんことを発言するな」って言って、潰しにかかってくる人が、どこに行ってもいた。それで、数千万円の損失が出るのをただ黙ってみていたことがあった。日本の社会は保守的すぎる。

とにかく「技術の汎用化」の速度が半端ないから、万博ならではの新規性を打ち出そうとしたら、決して簡単な話ではない、という覚悟は必要だという気が、すごくしている。